ディスクブレーキ無音化計画

ディスクブレーキで悩まされるのが、パッドやローターから出る異音です。音鳴りとか、単に鳴きとも呼ばれます。キィーという甲高い音のことです。ただし異音は、ディスクブレーキだからといって必ずしも発生するものではありません。マニュアル通り整備すれば、たいていの音は消えます。だからといって、マニュアル通り整備すれば完全に音が消えるとも言い切れません。ここが難しい所です。

横軸にブレーキレバーを握る力を取ります。縦軸は、制動力と音の大きさをプロットします。制動力が握る力と正比例するならば、横軸を制動力としてもいいのですが、実際には正比例ではありません。わかりやすいのは、強く握ってもそれ以上制動力が上がらない場面です。グラフの右端で勾配が緩くなっていきます。パッドとローターが過熱して摩擦係数が減るとこうなります。フェード現象と呼ばれます。握り始めは効かないで、その後急に制動力が立ち上がるようなパッドもあります。こういうのは、一見よく効くように感じますが、コントロールはしにくくなります。理想はやはりまっすぐな直線で、握る力に応じて制動力が発生することです。メタルパッドはそういう特性に近くなります。掲示板の方では、握る力が小さい時を低負荷、握る力が大きい時を高負荷と書いています。握る力と制動力が正比例するならば、そうした表現で問題ないのですが、実際は正比例ではありません。ただ低負荷、高負荷という方が直感的には分かりやすいので、こちらの言い方も使います。

異音が発生するのは、レバーを思い切り握った時だと思われるかもしれませんが、実は握る力が強い時には異音は発生しにくくなります。なぜならパッドとローターが密着して、振動が発生しにくくなるからです。異音の正体は振動ですから、密着させてしまえば振動しなくなるわけです。ブレーキのテストで善峯寺の下りをよく利用しますが、ゴール前200mの、勾配20%の区間では音鳴りはありません。ブレーキを強く掛けた状態で下るからです。音鳴りがするのは、勾配が10%程度に緩くなった区間です。グラフでは、赤、オレンジ、緑の3つの音鳴りのパターンを書き込んでいますが、レバーを握る力が中程度、つまり制動力が中程度の時に音が出て、さらに制動力が必要な状況では音は止まります。平地で急ブレーキを掛けたときに音がする場面では、レバーを握る途中で音が出て、制動力が最大になる頃には、既にバイクは止まっています。なので、レバーを最大に握った時に音がしているわけではありません。赤のグラフは、軽く握った状態から、つまり低負荷時から音が出始め、高負荷になって音が止まるまでずっと音がしている場合です。音量が小さくても、ブレーキを掛ける度に音鳴りするので、かなり不愉快です。オレンジのグラフは、音鳴りする領域は狭いのですが、音量が大きいパターンです。こちらは、音が出始める負荷より手前の負荷領域でブレーキをコントロールすれば、実際に音が出ることは少なくなります。出る音量にもよりますが、オレンジのパターンは、使用にあたっては許容範囲となることも多いです。

赤のようなパターンで、レバーを軽く握っただけでも音が出るブレーキパッドの場合、性能面(制動力、コントロール性)で特別優れているというのでなければ、見切りを付けて他のパッドに交換した方がいいでしょう。でも性能面で他に代えがたいメリットがあるのに、音がうるさくて使えないパッドが目の前にあるとして、どう対処したらいいでしょうか。そういうパッドは、たいていメタルパッドです。レジンパッドでも良く効くパッドはあります。経験値がそんなに高いわけではありませんが、よく効くレジンパッドはたいてい音が静かです。ということで、よく効くレジンパッドを探すか、メタルパッドを何とか使いこなすかの二択なのです。炎天下の六甲山下りといったシチュエーションを考えると、メタルパッドに安心感があります。

レバーを強く握った時には音は止まります。音がするのは、パッドとローターが完全には密着していない状態の時です。詳しくはないのですが、パッド面の摩擦力の分布が均一になっていないときに音鳴りが発生するのだとぼくは推測しています。例えばパッドに汚れがあると、汚れた部分の摩擦係数と汚れていない部分の摩擦係数の違いから、ローターと擦れるときに振動が発生し、それが音になるのでしょう。パッドとローターが全面ではなく部分的に接触した状態では、摩擦力の発生が均一にならず、そこで振動が発生するのではないでしょうか。片側ピストンのディスクブレーキでは、構造上パッドとローターが部分的にしか接触しない領域があります。また使い始めたばかりのパッドは、パッド面が必ずしも平滑とは限りません。まとめるなら、音鳴りの原因は、パッドとローターが接触する面での摩擦力の不均等な分布と言えるでしょう。パッドとローターは平行になるようにセットする、パッドとローターの適正なクリアランスを確保する、パッドとローターの慣らしをする、パッドとローターの清掃を頻繁に行う。これらが通常言われる音鳴り対策ですが、確かに理にかなっています。でも、それでも出てしまった音はどうするのか。

実際は(2)を最初に試して、それにプラスする形で(1)を試したのですが、ここではオーソドックスに(1)(2)の順で説明していきます。

(1)ピストンとブレーキパッドのプレートが接触する面にグリスを塗る。
自動車のディスクブレーキ整備では必須ですが、自転車についてはあまり語られません。でも理屈の上では有効だと思います。このグリスは、ピストンとプレートとを密着させるためです。金属は表面に細かい凹凸があるので、それをグリスで埋めて、金属同士の接触による振動を防ごうというわけです。グリスは耐熱性のあるもので、ある程度粘度があれば何でもいいと思います。あくまで金属同士を密着させるためのグリスなので、薄く塗ります。効果ですが、確かに効果はあります。でもこれ単独では音を消すところまでは行きません。そこで(2)です。
※当然ですが、パッドそのもの(摩擦面)にグリスを塗ってはいけません。

(2)パッドの柄の部分にシリコンテープを巻く。
振動を吸収する素材といえばブチルゴムを思い浮かべます。ブチルゴムでもいいのですが、耐熱性を考えてシリコンゴムにします。自己融着性のシリコンテープが市販されています。これをパッドの、うちわの柄にあたる部分に巻きます。キャリパーやリターンスプリングに干渉しなければ、厚く巻いた方が効果はあります。ぼくの使っているPromaxのキャリパーでは、キャリパーが干渉するので、薄くしか巻けませんでした。でもこれだけでもかなりの効果があります。音鳴りがする領域が高負荷側に寄ります。緑のグラフがオレンジのグラフの幅くらいになります。しかも音量が小さくなります。平地を走る分にはほぼ無音です。下りでは時々は音がしますが、だいたいどんな時に(どの程度の負荷で)音がするかが予想できるので、全然不快ではありません。

これでPromaxの純正メタルパッドと、MicrOHEROのカーボンパッドは、ほぼ無音まで持っていきました。MicrOHEROの焼結メタルパッドはちょっとやっかいで、それでもまだ音が収まりません。といっても、音鳴りがする領域は以前より狭くなっていますし、音量も小さくなっています。

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